水力発電は日本で昔からおこなわれてきた発電方法であり、再生可能エネルギーのなかでも普及率が高い点が特徴です。
水力発電と一口にいっても構造物や発電方法、水車の構造などによってさまざまな種類があるので、それぞれの特徴や違いを知っておきましょう。
こちらの記事では水力発電の仕組みや種類、問題点、そして長所・短所から課題などについて詳しく解説します。再生可能エネルギーとして水力発電に興味があり、より深く知りたいという方はぜひ参考にしてください。
水力発電とは?仕組みや歴史、発電所数なども紹介!
水力発電とはどのような仕組みの発電方法なのか、歴史、発電所数、日本での普及率などと合わせて解説します。
水力発電の仕組み
水力発電とは、上から下に向かって水を流したときの速度と圧力を利用し、設置してある水車を回転させて電気を生産するという発電方法です。
仕組みとしては貯水池の上部にある取水口から水を取り入れ、鉄管を通して水を運び、高低差を利用して高速・高圧の水流を水車へ落とすというもの。そして水車と同じ回転軸でつながった発電機に水車の回転の力を伝えることで、発電することができます。
これが基本的な水力発電の仕組みですが、河川の水流を直接利用する流れ込み式、河川の流量を調整する調整池式、貯水池を利用する貯水池式など、水力発電のなかにもさまざまな種類があるのです。
水力発電の歴史
日本は水資源に恵まれていることから昔から水力発電が盛んにおこなわれてきており、その歴史は約130年にもおよびます。化石燃料を使わずに電気を生産できることから、オイルショック後も石油にかわる貴重なエネルギー源として活用されました。
現在では大規模な開発をともなう発電所の建設はほぼ完了しており、今後はマイクロ水力発電のような中小規模の発電所の開発が中心となります。
水力発電は貴重な国産エネルギー源として期待されており、今後さらなる普及が望まれているのです。
水力発電所の数と日本の普及率
2020年時点において、水力発電は日本の全発電電力量の7.9%を占めています(認定NPO法人環境エネルギー政策研究所「2020年の自然エネルギー電力の割合」2021年4月12日)。
これは再生可能エネルギーのなかで太陽光発電に次ぐ発電量であり、日本の再生可能エネルギーのなかでは普及率の高い発電方法です。
先ほど説明した通り、水力発電は日本で昔からおこなわれてきている発電方法なので、環境破壊の問題が顕在化するよりも以前から長いあいだおこなわれてきています。
もっとも太陽光発電がFIT制度の開始にともない急速に普及したのに対し、水力発電の全発電電力量に占める割合はここ数年安定して推移しているのが現状です。

水力発電の構造物の種類と発電方法|水車の種類も紹介!
水力発電の基本的な仕組みについては先ほど説明しましたが、水力発電にはいくつかの種類や発電方法があり、仕組みも異なります。
ここでは水力発電の構造物の種類や発電方法、水車の種類について解説するので、より具体的な仕組みについても理解しましょう。
水力発電の構造物3つ
水力発電は構造物に応じ、3つに分けることができます。基本的にはダム式と水路式の2パターンがあり、この2つを合わせたのがダム水路式という3つ目のパターン。
以上の3つについて、それぞれどのような仕組みになっているか解説します。
構造物の種類1. ダム式
ダム式発電所は河川をせき止めるダムを建設し、貯水池に水を溜めて電気が必要なときに水を落とすという方法です。
ダムを建設することで多くの豊水期の水を貯水池に確保しておくことができるため、溜めた水を適切なタイミングで無駄なく使うことができるというのが大きなメリット。
ただしダムの建設には大規模な工事が必要であるため、高額の建設コストがかかるというデメリットもあります。
構造物の種類2. 水路式
水路式は自然の勾配を利用した水力発電です。緩やかな水路を作って河川の上流で取水し、河川の上流と下流との落差を利用して発電するという方法。
水路には流水中の土砂などを沈殿によって取り除くための沈砂池を設け、土砂侵入を防止できるという仕組みになっています。水路式であればダムを建設する必要がないため、水力発電のなかでも比較的低コストでおこなうことができるのが大きなメリットといえるでしょう。
構造物の種類3. ダム水路式
ダム水路式発電とは、ダム式と水路式の2つを合わせた発電方法です。水路式の落差にダムの貯水量と落差を加えることで、大容量かつ高落差の水力発電をすることができます。
そのためダム水路式を活用すればダム式・水路式のどちらか一方のみを活用するより多くの発電が可能になるのです。ただしダムの建設に加えて水路の整備も必要になるため、ダム式以上に高額のコストがかかってしまうというデメリットもあります。
工事の規模から考えても、簡単にダム水路式の発電所を作ることはできないでしょう。
水力発電の発電方法4つ
水力発電には以下のような4つの方法があります。
・流れ込み式(自流式)
・調整池式(小規模ダム)
・貯水池式(ダム)
・揚水式(ダム)
括弧内はそれぞれの方法に使用される構造物の種類です。それでは以上の4つの発電方法について、順番に内容をみていきましょう。
発電方法1. 流れ込み式(自流式)
川の水をそのまま発電所に引き込む発電方法で、水力発電のなかではもっとも基本的な方法です。
貯水池などを作る必要がないため必要最低限の設備で発電をおこなうことができるため、建設コストが抑えられるというのが流れ込み式のメリット。
ただし水を貯めることができないので豊水期には全ての水を利用することができず、渇水期になると水が足りず発電量が減少してしまいます。このように降水量次第で発電量が変化してしまうのが、流れ込み方式の課題といえるでしょう。
発電方法2. 調整池式(小規模ダム)
調整池を作って水を貯水し、水量を調節して発電する方法が調整池式です。調整池式では、1日~1週間程度の発電用水を調整池に溜めることができるので、豊水期と渇水期の発電量を調整することができるというのがメリット。
水を溜めておくことができれば発電のタイミングも調整できるため、電力需要に合わせて発電をすることもできます。電力消費量は昼間と夜間で大きく異なるので、再生可能エネルギーのなかでも発電のタイミングを調整できる水力発電は活用の幅が広いといえるでしょう。
発電方法3. 貯水池式(ダム)
貯水池式はダムに溜まった水を活用した発電方法のことです。貯水池式も貯水池に水を溜めておくことができる仕組みになっており、貯水池の規模次第で膨大な貯水量を確保することが可能です。
また河川の水をせき止めることで水の流れをコントロールできるため、季節や時間帯を問わず年間通して安定的に電力供給することもできます。ただし大規模なダムの建設が不可欠であるため建設コストが大きく、多大な初期費用が掛かってしまうというのが課題といえるでしょう。
発電方法4. 揚水式(ダム)
揚水式は発電所の上部と下部に調整池をつくり、昼間の電力需要の多いときに上から下へ水を落として発電し、夜間の間に下の調整池に溜まった水を電気を使って汲み上げるという方法で発電します。
このように、発電のために使う水を電気を利用して揚水するというのが揚水式の特徴です。
揚水は電気の使用量が少ない夜におこなわれるのが一般的ですが、最近では昼間に太陽光で発電した電気を利用して揚水をおこなうことも増え、より環境にやさしい発電方法へとシフトしてきています。
水車の種類4つ
水力発電所の主要設備である水車ですが、この水車にもタービンの構造などの違いからいくつかの種類があります。
それぞれの種類の構造と発電の仕組みについて説明するので、図を参照しながら確認してください。
※画像引用元:中部電力「水力発電のしくみ/水車の種類」
水車の種類1. フランシス水車
フランシス水車は、水の圧力と速度を図のタービン(羽根車)に作用させる構造の水車です。図の左側にあるケーシング部分から水を取り込み、内部に設置されたタービンを水の圧力によって回転させ、発電するという仕組み。
広い範囲(10~300メートル程度)の落差で使用できるのが特徴で、日本の水力発電所の約7割でこの水車が使われています。
水車の種類2. プロペラ水車
水の圧力と速度を利用した発電方法で、図を見比べるとわかる通り構造自体はフランシス水車と変わりません。プロペラ水車の特徴はランナーの羽根部分が固定されているフランシス水車とは違い、可動構造になっているという点。
このような仕組みにより、フランシス水車には対応できない低落差でも発電することができるのがプロペラ水車のメリットです。プロペラ水車は主に5~80mの低落差~中落差に向いています。
水車の種類3. ペルトン水車
ペルトン水車は水の速度のみを利用する水車であり、落差の大きい発電所に用いられます。図の左側にあるノズルから強い勢いで水を噴射させ、右側にあるおわん形のタービンの羽根に水を吹きあてることで水車を回転さるという仕組み。
ノズル管内にあるニードル弁は、ノズルから放射する流水量を加減するためについています。ペルトン水車は200m以上の高落差に適した水車です。
水車の種類4. クロスフロー水車
フランシス水車と同じで、水の圧力と速度を利用します。クロスフロー水車の構造は比較的シンプルで、ガイドベーンによって二つに分かれた水流をランナーにあてることで水車を回すという仕組み。
このようにランナーの中へ水流が入ってそのまま通り抜けることから、「通り抜ける」という意味のクロスフローという用語が使われています。クロスフロー水車は落差5~200mの、中小規模環境・高落差の地形で高効率を発揮します。
水力発電のメリットとデメリット
水力発電にも他の再生可能エネルギーと同じように、メリット・デメリットがそれぞれあります。
ここでは水力発電のメリット・デメリットについてそれぞれ解説します。
水力発電6つのメリット|どんな利点がある?
水力発電には、以下のようなメリットがあります。
・温室効果ガスを排出しない
・再生可能エネルギーで安定供給かつ地球に優しい
・発電・管理コストが他の発電方法と比較して安い
・エネルギー変換効率が高い|変換効率80%
・ 日本の地形にぴったり|起伏が激しい
・電力需要に合わせて発電できる
以上6つのメリットについて、順番に解説します。
メリット1. 温室効果ガスを排出しない
水力発電は、自然界に存在するエネルギーを利用した発電された再生可能エネルギーの一種です。
再生可能エネルギーは二酸化炭素をはじめとした温室効果ガス排出量が少ないのが特徴ですが、水力発電は再生可能エネルギーのなかでもCO2排出量が圧倒的に少ないという特徴があります。
電気の生産に温室効果ガスを排出しないというのは、水力発電の大きなメリットといえるでしょう。水力発電は、再生可能エネルギーのなかでも特に環境負荷が少なく、安全性の高い発電方法なのです。

メリット2. 再生可能エネルギーで安定供給かつ地球に優しい
水力発電の発電量は降水量に多少左右されるものの、風力や太陽光と比べれば電力供給が安定しています。そのため地球にやさしい再生可能エネルギーのなかでも特に安定供給に適している発電方法なのです。
また資源に際限がないためどれだけ使用しても枯渇することはありません。化石燃料のように限りある資源はいつか枯渇する可能性があり、資源の調達にコストもかかりますが、水力発電は設備さえ整えば資源を調達するコストはかからないのです。
水力発電は温室効果ガスを排出しないクリーンで安全性の高い発電方法であり、地球にやさしい電力の安定供給を実現できる発電方法といえるでしょう。
メリット3. 発電・管理コストが他の発電方法と比較して安い
水力発電の燃料は雨水をエネルギー源とするため有償の燃料を必要とせず、発電後に廃棄物等を処理する必要もありません。そのため発電・管理コストが他の発電方法と比較して安いというメリットがあります。
経済産業省の総合資源エネルギー調査会「発電コスト検証ワーキンググループ」の報告によれば、2020年時点での中水力発電のコストは1kWhあたり10円台後半ということでした(経済産業省「発電コスト検証に関するこれまでの議論について」令和3年7月12日)。
発電・管理コストが他の発電方法と比較して安いというのは、水力発電の特徴ともいえるでしょう。
メリット4. エネルギー変換効率が高い|変換効率80%
エネルギー変換効率とは、発電に使われたエネルギーのうちどれだけ電気に変換されたかという割合のことです。水力発電は変換効率80%であり、他のエネルギーと比較しても極めて高いエネルギー変換効率になっています。
再生可能エネルギーは、エネルギーが形を変化する際他のエネルギーに分散されてしまうのため100%別のエネルギ―に変換することができないという特徴があります。
たとえば風力発電のエネルギー変換効率は約25%で、太陽光発電は約10%。そのなかで水力発電のエネルギー変換効率約80%というのは、再送可能エネルギーのなかでいかにエネルギー変換効率が高いのかがわかるでしょう。
メリット5. 日本の地形にぴったり|起伏が激しい
日本列島の地形は世界的に見ても山岳や河川が多いという特徴がありますが、このような日本の地形は水力発電にとても向いています。
水力発電は、土地の高低差によって生じる水の流れを利用した発電方法なので、山岳が多く起伏の激しい日本の地形はいかに水力発電に向いているかということがわかるでしょう。
また河川の多い日本では水力発電に不可欠な水資源も豊富にあるため、特定の場所に限らず全国各地で水力発電がおこなわれています。水力発電にはいくつかの種類がありますが、このような日本列島の地形を活用することで多くの地域で水力発電をすることができるのです。
メリット6. 電力需要に合わせて発電できる
水力発電のなかでもダムに水を貯水しておけるタイプであれば、発電のタイミングを自由に選ぶことができます。つまり電力需要が少ない時期や時間帯には水を貯めておき、電力需要が多いときに水を放って発電することができるということ。
再生可能エネルギーは自然の力を活用して発電するため、基本的に発電のタイミングは活用する自然エネルギーにゆだねられます。そのため自由なタイミングでいつでも電力の発電ができる発電方法は、再生可能エネルギーのなかでは水力発電の他にはありません。
電力需要に合わせて発電できるという点は、水力発電ならではのメリットといえるでしょう。
水力発電4つのデメリット|どんな欠点がある?
水力発電には多くのメリットがある一方、以下のようにいくつかのデメリットもあります。
・発電量が降水量に左右される
・ダム建設の初期費用が高い
・ダム周辺の住民や自然に影響がでる
・水力発電所の場所は限られる
以上4つのデメリットについて、それぞれ解説します。
デメリット1. 発電量が降水量に左右される
水力発電は水の流れる力を利用した発電方法なので、降水量が少なく水不足になると発電量が減ってしまいます。天候や自然環境などに発電量が左右されてしまうのは、多くの再生可能エネルギーに共通するデメリットともいえるでしょう。
もっとも太陽光発電・風力発電などの他の再生可能得打エネルギーと比較して、発電量が天候などから受ける影響は軽微です。
貯水池式であれば溜めておいた水を使って発電量を調節することもできるので、再生可能エネルギーのなかでは水力発電の供給は安定しているといえます。
デメリット2. ダム建設の初期費用が高い
ダムを建設するためには大規模な工事が必要であり、多大な費用がかかります。そのため水力発電は、ダム建設にともなう高額の初期費用がかかるというのが典型的なデメリットでしょう。
またダムの底には土砂が堆積するため、安全性を保つためには定期的に土砂を撤去しなければなりません。
このような管理コストも合わせて考えると、水力発電には大きな資金が必要であることがわかります。初期費用をはじめとしたコストの高さは導入のハードルの高さを意味するので、普及拡大を阻む大きな要因になるのです。
デメリット3. ダム周辺の住民や自然に影響がでる
ダム建設は大規模な事業であるため、周辺の自然環境には少なからず影響を与えることになります。そのため水力発電のダムを建設するためには、近隣住民から理解を得ることが必須になるでしょう。
またダムを建設するためには森林を伐採しなければならないため、水力発電所の建設には自然破壊がともないます。さらに山から流れ出る栄養分がダムでせき止められ栄養が海に流れなくなってしまうので、海の生態系にも影響を与えてしまうのです。
デメリット4. 水力発電所の場所は限られる
水力発電は土地の勾配があり水資源が豊富な環境でなければおこなうことができないため、日本全国でみても発電所を建設できる場所は限られます。
水力発電は古くからおこなわれてきているため、適した土地は既に開発されており、新たに新設される発電所は比較的小規模なものに限られるでしょう。このように水力発電所の場所は限られていることから、発電所を増やして急速に普及率をあげることは難しいのです。
水力発電の課題と今後について
水資源が豊富な日本では昔から水力発電がおこなわれてきましたが、現在は原子力発電や火力発電が全発電電力量に占める割合の多くを占めており、水力発電の割合は減ってきています。
またダムの建設には多額の費用がかかるのが普及拡大の大きな課題であり、今後日本に新しいダムが建設される見込みは低いと考えられるでしょう。もっとも最近ではダムを建設せずに発電が可能な「マイクロ水力発電」が注目されているため、水力発電の課題を克服できる可能性があります。
マイクロ水力発電とは、発電出力が1000kW以下の小規模な水力発電のこと。マイクロ水力発電はダム式に比べて発電量は少ないものの、一般家庭や工場などに電力を供給するには十分な発電量を得ることができます。
このようにマイクロ水力発電を活用しつつ太陽光発電・風力発電と合わせて使っていくことで、水力発電の課題を克服して再生可能エネルギーの普及を拡大することが期待されているのです。
まとめ
水力発電は、高低差を利用した水の速度と圧力でタービンを回転させる発電方式です。再生可能エネルギーで安定供給かつ地球に優しい発電方法であり、再生可能エネルギーのなかでも特に安全性の高い発電方法といえるでしょう。
また温室効果ガスを排出しないクリーンな発電方法であるという点も特徴であり、エネルギー変換率が高いというにも大きなメリットです。
ただしダム建設には多額の費用がかかるため、普及拡大は難しいというのが難点。
最近ではダムを建設せずに発電ができるマイクロ水力発電も徐々に普及してきているため、今後はマイクロ水力発電の活躍に期待できます。